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2022年度 文明動態学研究所 共同研究プロジェクト ライアン・ジョセフ

採択課題名

古代吉備における製鉄原料産地の実態解明に向けた考古学・文献史学・地球科学的共同研究

メンバー一覧(氏名、所属)

ライアン・ジョセフ岡山大学・文明動態学研究所
今津 勝紀岡山大学・文明動態学研究所
岩崎 志保岡山大学・文明動態学研究所
木村 理岡山大学・文明動態学研究所
鈴木 茂之岡山大学・自然科学研究科
中村 大輔岡山大学・自然科学学域
池端 慶筑波大学・生命環境系
長原 正人独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構・資源探査部
吉江 雄太奥会津地熱株式会社・生産部技術係
上栫 武岡山県教育庁文化財課
武智 泰史倉敷市立自然史博物館

研究の概要

吉備地域では古代史的に重要な製鉄遺跡が数多く確認されているが、製鉄原料がどこから入手されたかは未だに不明のままである。また、総社市八代鉱山跡など、県内複数個所において漂砂性以外の小規模な鉄鉱石産地の存在も知られていたが、古代の製鉄操業との関係が必ずしも明確にされてこなかった。そこで、本研究プロジェクトの目的は、吉備地域に点在する鉄鉱石産出露頭の分布を明らかにし、これらの鉄鉱石が古代製鉄の原料であったかどうかを解明するため、遺跡出土の製鉄原料などと、露頭から採取した鉄鉱石試料を地球科学的手法により比較し、その関係性を検証することである。大規模なプロジェクトであるため、今年度の目標は、考古遺物の分析に先んじて、昨年度に確認した露頭産出の鉄鉱石試料を鉱床学的に解析することとする。また、考古学と文献史学の検討を通じ、古代吉備における製鉄遺跡の地域史への位置付けを試みることとする。

研究実施状況

 本研究プロジェクトの目的は、遺跡出土製鉄原料と露頭産出の鉄鉱石試料の地球科学的比較を行なうことにより、古代吉備における鉄鉱石の産地と流通経路の実態を明らかにすることである。この研究課題を遂行するため、県外の共同研究構成員とともに鉱山跡の現地地質調査および鉄鉱石試料の採取を積極的に実施した。また、昨年度および本年度に採取した露頭産出の鉄鉱石試料を鉱床学的に分析し、遺跡出土鉄鉱石試料と比較可能なデータを蓄積した。さらに、英語圏で行なわれている鉄生産に関する研究の基礎的整理を進めた。

研究成果の概要

 本研究の目的は、遺跡出土の製鉄原料と、露頭から採取した鉄鉱石試料を地球科学的手法により比較し、その関係性を検証することにより、吉備の鉄鉱石産出露頭の分布を明らかにし、これらの鉄鉱石が古代製鉄の原料として使用されたかどうかを解明することである。

 まず、県外の共同研究構成員とともに鉱山跡の現地地質調査を実施した。具体的には、佐野鉱山跡、山生鉱山跡、鳴林鉱山跡、河本ダム周辺地域、阿哲鉱山跡、金平鉱山跡、山宝鉱山跡などにおいて地質調査を行ない、鉄鉱石に加え、鉱床形成に関与した花崗岩の試料も採取した。佐野鉱山ではスカルン鉱床の露頭を見出し、形成鉱石の産状も観察した。これらの鉱山跡で採取した鉄鉱石試料は遺跡出土鉄鉱石と比較し、産地同定するうえで重要である。また、岡山市内の踏査の結果、多量の鉄滓とともに製鉄に使用したであろう鉄鉱石を発見し、新たな製鉄遺跡の存在を確認することができた。

 また、吉備地域周辺のスカルン鉱床の鉱石およびそれに伴う鉱物の顕微鏡観察およびEPMA分析を実施した。河本ダム地域、山宝鉱山、神武鉱山などの鉱石について顕微鏡下で観察記載した。これらの鉱物のうち、磁鉄鉱およびザクロ石についてEPMA分析を行ない、化学組成を明らかにした。さらに、顕微ラマン分光分析も合わせて実施した。これは遺跡出土鉱石の構成鉱物、産状、化学組成と比較し、産地同定を行なう際に有益なデータである。

 さらに、古代日本における鉄生産の人類史的評価を深化させるため、海外で行なわれている世界各地における生産をめぐる研究の基礎的整理を進めた。

 このように、今後の遺跡出土鉄鉱石との比較を行なうための基礎作業として、自然露頭に産出する鉄鉱石の地球科学的分析を積極的に実施し、その化学組成を明らかにすることができた。